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2017年07月29日

2017年3月13〜24日◆龍馬のビール(後編)

これの続きです。

司馬遼太郎の指摘。
大阪弁は潤滑油の方言であり、この言葉は感情のみ。
哲学的思考はできない方言。
物事を比較的手触り良く曖昧にする最高の方言で「もうかりまっか?」「ぼちぼちでんな〜」という。
正体をくらますためには最高だが、論理思考には向かない。
現在の国会、あるいは政界というのは長州弁。
ズバリ言って「〜であります」等々は長州の方言。
横から横へ、手渡しにはもってこいという。
それが長州弁、山口弁。
維新の黒幕である岩倉具視がひどく嫌ったのが土佐弁で、土佐弁というのは「人を揺さぶる」というアジテートの方言で、何でも劇的に聞こえる。
これは西南戦争に駆けつけてボロクソにやっつけられた男の証言が土佐弁で残っている。
これが講談みたい。
「そがいなときにワシは一切ひかんと言うたがよ」とか。
響きが抜群にいい。
土佐弁というのは何かそういう竹刀で叩きあうような軽快さがある。
聞いていて気持ちいい。
武田先生がどこでも言っていることだが「坂本龍馬は何でかっこいいか?」。
「土佐弁で日本を心配したからだ」という。
「日本はこのままでは非常に危険です」と言われてもピンとこない。
「このままではニッポンはいかんぜよ!」というと「イカンかな〜」とみんな思っちゃうという。
今回の主人公であるキリンビール高知支店で同じことが起きたのだろう。
(この後もまた本には登場しない「社長に『たっすい』と言った」という話が続く)
1998年、土佐弁を使うと物事まで土佐弁っぽく動くのか、この本社から高知支店に社長直々の電話があって「味を元に戻す」。
(という記述は本にはない)

 社長はその翌日、東京に帰って、すぐに、たまたま新聞社の取材がありました。そのときになんと、「現場の声でこういうことがあるので、ラガーの味を元に戻す」と言ってしまい、そのコメントが新聞の記事になってしまったのです。
 この問題は本来いろんな会議などコンセンサスが必要なレベルのことなので、社長があとで役員に説明するような事態になったようですが、予想もしなかった形でラガーの再リニューアルが決定しました。
(86頁)

 年初、高知新聞の取材を受けました。−中略−
 そこで、「高知の人の声でラガーの味を元に戻しました」というタイトルの記事が出ました。
(86〜87頁)

これで高知で「俺たちの好みにキリンは合せてくれたんだ」ということが話題になって。
この田村さんというのはやっぱり支店長でキレる。

大苦戦のときに投げつけられたこの言葉を利用させてもらい、「たっすいがは、いかん!」という大小のポスターをつくって大々的なキャンペーンを行いました。(96頁)

「高知の声が変えたラガーの味」というのと「たっすいは、いかん」がすごく評判になる。

 なおかつ追い風が吹きました。ラガーのリニューアル発売から1カ月後の1998年2月、発泡酒「淡麗〈生〉」が新発売されました。(91頁)

キリン 淡麗極上〈生〉 350ml×24本



営業レディーの一声から本社が動いて、キリンラガービールの味が変わった、元に戻った。
それも全てこの高知から始まったことだという。

 そうやって、1カ月に400店以上回るようになっていました。
 3年前には30〜40店舗の飲食店しか回っていなかった、同じ営業マンたちです。
(92頁)

外回りでものすごいパワーを発揮し、本当に「もう家に帰る暇など無くていい」というような。
今、働き過ぎ、働き方等々が様々問われているが、仕事が面白いという幸せは何物にも代えがたい。
そんな気持ちで聞いていただくと面白い。
一番負けていたキリン。
そのキリンビールがゆっくりと売り上げが上り始めたという。
他の四国3県はというと、相変わらずアサヒが強い。
勝てない。
ただ高知支店のみがラガーに関しては、キリンビールに関しては「真田丸の如く奮戦した」という心地のよさ。
そしてこれは全国展開でも後に話題になるが、ラジオCMで傑作を生む。
ドキュメンタリー風のラジオコマーシャルを高知県だけで流した。

 ラジオCMでは電車の音と一緒に「電車が高知県に入りましたので、ビールはラガーに変えさせていただきま〜す」。「飛行機バージョンでは「ただいま、高知上空にはいりました。今からビールはラガーに変えさせていただきま〜す」。(95頁)

もうこのあたりでラガーから一挙に奮戦が始まる。
そうすると事務方職員は・・・。
もう支店長は何も言わない。
勝手に営業マンたち、所員たちが働く。

 それまで高知支店では午後5時半になると留守番電話に切り替えられていて、生ビールのサーバーの故障など、夜の営業時間に起きる緊急事態への対応もできていませんでした。しかし、いつの間にか、最後のひとりがオフィスを出るまで、留守電にせずに対応するよういなりました。
 すると「夜に困ってキリンのオフィスに電話しても人が出る」という評判が立ち、キリンのサービスの良さや熱心さという情報が広がっていきました。
−中略− 
 たとえば、あるディスカウントショップに10ケース単位でスーパードライを買いに来るお客様がいる。どうも消防署員のようで、厳しいトレーニングや勤務のあとに飲んでいるらしい。そういう情報が入ると、すぐさま、消防署に出向き、熱心にお願いして「わざわざ買いに出なくても、キリンビールならお届けします」と提案して、「じゃあ、今度からキリンにするか」となりました。
(99頁)

社長に猛抗議した女子社員はもう事務方ではなく、土佐では外回りもする戦力と化していたという。
働くというのはこういうこと。

 花見で飲むビールの銘柄は人気投票のようなものです。
 宴の翌日現場に行ってみると、ゴミ箱には昨年まではアサヒ8割、キリン2割だったのが、ほぼ互角の空き缶の数になっていました。
(102頁)

(番組では「全社員が桜の下で泣いた」と言っているが、そういう記述はない)

 1997年に37%と落ち込んだシェアは、1998年に反転し、その後も着実に上昇を続け2001年に44%となり、ついに高知県ではトップを奪回しました。(106頁)

 まず高知以外の愛媛、徳島、香川はどうであったかというと、実はどこも以前の高知と大きくは変わらない状況でした。(113頁)

 またたまたま、高知が5年ぶりにトップを奪回した2001年に、キリンビールは逆に、四十数年ぶりに2位に転落したのでした。(106頁)

しかし一か所だけでも勝っているという。
この大坂夏の陣の真田丸同様「高知は勝ってるんだ!」というのは全社に檄としてその名が響く。
当然のことだが、田村さんはここまで優秀な方なのですぐに四国全県の統括本部長として香川高松への転勤が決まる。
(本によると「四国4県を統括する四国地区本部長」)
この人は、この本を読んでいても仕事中毒のそういう人ではない。
やはりどこか深い。
今、働き方などで悩んでいる人がいたら、この人の働きぶりをちょっと振り返ってみてください。
この人は自分の仕事に対して、あるいは本社に対して「疑念を持っていた」という。
キリンビールという会社は、社会に必要なのか?
巨視的な目で自分の会社を振り返るという。
働くということは時として哲学的でもある。

この方は売り上げが思わしくない時は自分の仕事にいて考え込んだ。
考え込む材料は「自分が懸命に勤めているこのキリンビールという会社は社会に必要なのか?」。
考え続けて、こう考えをまとめる。

・百年の歴史と「品質本位」「お客様本位」の理念をもつこの会社は残すべき会社である。
・日本人に愛飲され、ひとりひとりの大切な記憶につながるキリンラガーは、守るべきブランドである。
・だから、最後のひとりになっても闘う
(79頁)

大きな「理念」を胸の中に持っていないとダメなんだという、そういう考え方がいい。
若い時に学生運動をやっている先輩から説教をされた武田先生。
フォークシンガーになろうかなるまいかと、ウジウジ悩んでいる時に学生運動をやっていた先輩。
頭のいい人だった。
その方が「武田君、戦争に協力せん職業はみんな尊いとよ」という。
それに何かえらい深く感動したことがあった。
何かそう言われると急に芸人風情でも胸を張りたくなる。
理念の問題。
そういうものがないと人間というのは生きていけない。
社長以下の顔を並べて「社会全体にいかに奉仕しているか?」それから「この会社を必要とする人がいるだろうか?」という。
この2点のみチェックするだけでも働き方は変わるような気がする。

ついに高知から飛び出して四国全体、全県の戦いを担当することになった著者の田村氏。
アサヒも素晴らしきライバルで味をよくするためにものすごい巨費を投じて愛媛にビール工場を作り、新鮮なビールを四国全県に供給する。
サプライズ、キリンを圧倒している。
故に今度の新しい転勤地の愛媛はものすごくアサヒが強い。
松山は武田先生も歩いたことがあってよく分かるが山深いところ。
松山には南予エリア。
これはアサヒ系の問屋さんがシェアを独占していて、キリンは持っていない。
これはもう致命的。
つまりお城がない。
基地がないので出撃できない。
そこで著者も感動する。
著者が全体の統括を面倒を見るということで四国の営業マンたちが奮い立ったのだろう。
「よーし!高知に続け!」ということで。

 ここでひとりの南予担当者M君が、自分の考えでアサヒ系の2つの問屋に行き、なんと、
「なんでもお手伝いしますから、トラックに同乗させてください」
 と頼み込んで、問屋の営業マンと一緒に南予を回り始めたのです。
 はじめはアサヒ系の問屋も提案にびっくりしていましたが、キリンの営業マンが一日中汗を流しながら、アサヒビールや日本酒の上げ下ろしまで手伝ってくれたものだから、「キリンの社員はプライドが高いと思っていたけれど、本当に一生懸命やっていた」と信頼を得て、「これからはキリンも売ろうじゃないか。
(117頁)

(番組では愛媛県の全員の営業マンがやったと言っているが本にはそう書いていない)
キリンの社員たちは営業所を持っていないのでアサヒビールの問屋さんまで出向いてアサヒビールの積み下ろしを手伝う。
そのことによって顔をお店の人に知ってもらおうという努力を重ねるという。
敵方のビールを下ろして回った。
で、お店の人が「アンタ誰?」と言うと「ワタクシ実はキリンの営業マンで」「え?アンタ、キリンなのかよ。アサヒ手伝っていいの?」と笑われて「しょうがねぇな。じゃあ来週持っておいでよ」とか。
何ケースか買ってくれるという。
そういう巨大なダムにアリが穴を開けるような作業を営業マンがやる。
これは本当に、水谷譲が言ったが大変だし、ある意味空しい。
ところがこの田村という所長さんが帰ってきた営業マンを絶賛する。
「無駄な努力」とか言わない。
「よくやった」とか言う。
(という話も本の中には出てこない)
その新統括の本部長さんを迎えたことによって全店が色めき立つ。
「俺らも何とか高知に続いて四国を奪還しよう!」という。
今度は徳島支店がものすごい手を考える。

 徳島支店が考えた戦略は、コンビニエンスストアの攻略。−中略−目の前にいつもお店があるので、少量でも扱っていただいているなら訪問してみようとお店に行ってみたところ、店員はアルバイトが多いので、直接訪問しても商談できないことがわかります。商品陳列の権限はオーナーにあるからです。当時、オーナーはアルバイトを確保しにくい夜の時間帯をカバーしていることが多く、夜中に出てくる店も少なくありませんでした。
 そこで徳島支店は全員で、オーナーが出てくる夜の12時から明け方の4時までコンビニを回りだしました。
−中略−
 深夜の訪問を受けたオーナーも、深夜にやってくる営業は初めてですから、話を聞いてくれました。
(119頁)

夜中で話し相手のいない寂しい時間帯だから、ずっと話を聞いてくれる。
1週間に3回ぐらい連続で来られるともう、オーナーの方から中で「ハイハイハイ!」と手を振っている。
(とは本には書いていない)
それで「何缶か置いていきな」。
その一言で驚くなかれ、一年で売り上げが5%伸びたという。
この営業マンたちの努力というのは凄いものだ。
それから問屋さんの手伝いで「1ケース置いてください」が積もり積もって、アリの穴がだんだんデカくなってきたという。
このあたりが働くことの一種「面白さ」。

ここまでで本の半分ぐらいだが、この後、この人は全国展開でキリンビールを立て直していく。

著者は懸命に今、四国で戦っている。
このあたりも本当に申し訳ないが、死者を出してしまったあのセレブ会社との「違い」かも知れない。
何か面白い。
片一方では警察に踏み込むような大騒ぎになり、片一方では生き生きとした労働物語。
著者はこの本の中で懸命に叫んでいる。
「職場における女性というのは、すごいパワーを持っているんだ」と。
高知支店で「ラガーの味を元に戻せ」とキリンの社長へねじ込んだのも電話番の内勤の女性社員。
営業マン達の苦悩を見かねて、この内勤女性は社長がやってきた時に「たっすいは、いかんぜよ」と言いながら「ラガーの味を元に戻せ!」という、その辺の社員ができないような交渉をやる。
そういうことを経験した著者は「女性ってのはパワーなんだ」と。
女性社員のやる気というのはもう、全軍の士気に関わるということで。

総人員を増やすのは難しかったので高松に置かれた四国地区本部で勤務する総務、企画、経理、営業サポートといった役割の女性の内勤者と話し合い、合意を得られたメンバーから、営業現場に出てもらいました。約20名中3割程度でした。
 これは正直なところ、抵抗にあいましたし、自ら営業マンになりたかった女性社員はひとりもいなかったと記憶しています。
(121頁)

ちょっと得意先との接触なんかで「女性営業マンは・・・」というような首をひねるような趣もあったのだが、この著者の元で働きはじめると女性たちもグングン生き生きとしだし、女性社員が混じった方がはっきり売り上げが伸びる。 
この四国4店を見習えということで、キリンビールでは内勤女性に対しては「宝の山」というニックネームでもう全国展開になっているようだ。

2年半の在任中に四国4支店の数字は反転し、県別売り上げ対前年比でも4県ともベスト10入りという快挙も上げるように優秀な支店群となりました。(122頁)

 2007年3月、わたしは12年ぶりに東京の本社に戻り、営業部門と商品部門を統括する営業本部長に着任しました。(147頁)

(番組では四国の次が本社のように言っているが、四国の次は東海)

働き方が問われる時代。
また、過労死等の職場環境が社会問題というような時代になった。
テレビでこの働き方に関して発言をしたら、番組のディレクターさんから「武田さんがそれを言うと、私、クビが飛びます」と言われたことがある。
「働いていいんじゃないの?死ぬまで」と軽く言ったので。
怒られてしまった。
しかし、この本を読んでいると本当に昔読んだ『太閤記』。
あの天下取りに挑んでいく一武将の物語を読むようでワクワクする。
この本の中に込められた、著者が社員としてキリンという会社に所属しながら「本当にこの会社は社会に必要なのか」「本当にこの会社はこれからも社会に尽くすつもりなのか」。
そのことをとことん考え抜いたという、その姿勢がとても惹き付ける。
給料を手にする前に、この人はこのことを考えている。
その理念の確かさがこの人の労働意欲、そして働くことへの炎の熱さになっているような気がする。
「労働条件」でなく「労働理念」がなければ人は働けない。
頭の中に何がパーッとよぎったかというと、トランプさんがよぎった。
「アメリカファースト」も結構だし「アメリカに最も職をもたらした大臣として歴史に残りたい」と仰るが「働く」とはそういうことではない。
トランプさんは何かちょっと勘違いしてらっしゃる。
そういう危険性がある方。
あの人、仕事仕事と言うが、彼が夢見ている白人男性労働者の筋骨隆々たるハンマーを振り回すような働き方。
そこではもう「ロボット化」。
トランプさんはロボット化していく産業界に対する逆行でもある。

この本の中に込められたものは「働く人の物事の考え方が働くことを明るくしていく」というか。
上の方が仕事を作るんではない。
「下の者が仕事を作っていく」という。
そのことが一番職場にとっては大事なような気がする。

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